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映画「化石」 

kaseki9[1]
ご存知の通り、YouTubeは、検索すれば、世界中の出来事、動画、演奏、舞踊、ありとあらゆるジャンルの活動を観ることが出来る。これに味をしめて、古い邦画を片っ端から観ているのだが、気付いたのは、邦画なら、映画会社(東映、大映、松竹など)が製作したそのままでは検索出来ない(或いは、著作権の問題で、取り消されたなど)場合、フランス語、スペイン語、中国語などの字幕が出てくる版であれば、もっと色々観ることが出来る、ということだ。映画の出演者が話すのは日本語なので、字幕は、気にせず、昔の「月形半平太」とか、「鞍馬天狗」、「忠臣蔵」に至っては、私の子供の頃は、お正月映画は、「忠臣蔵」と決まっていたから、何つのバージョンを観たか、というほどだ。「座頭市」の大立ち回りなども、観ることが出来る。また逆に、洋画の場合、日本語の字幕が入っているのも観る穴場。

そんな或る日、攫っていたら、井上靖さんの「化石」という映画が眼にはいった。主演は、佐分利信と、岸恵子さん。1975年製作。これは、と思って観てみたら、実にいい映画だった。そこで、これは原本を読みたいと思い、NYのブックオフに行ったのだが井上靖さんの本は数冊のみ。他の本屋も置いていない。絶版らしい。友人に話したら、古本なら入手できるかも、と。古本だろうと何だろうと、読みたい、というので、手にいれた。

届いたのは、角川文庫で、初版昭和44年(1969年)で入手した文庫は第七版、昭和47年(1972年)印刷である。カバ-も、本も褐色に色変わりしている。裏をみたら、定価340円。とはいえ、延々750ページを越える大作。しかも、印刷文字の小さいこと。暗い処で読むなら、虫眼鏡と懐中電灯が必須だろうと思われる代物。

通常文庫本は元原を厚表紙の本で出版するので、調べてみたら、講談社から出版されたのは、1961年で、その後、朝日新聞に新聞小説として掲載されたようだ。井上靖さんは、1907年に生まれ、1991年に享年84歳で、亡くなっている。「化石」を出版したのは、1961年だから、52、3歳の時の作品だ。井上さんは主人公と同じ目線で書いたということか。

会社人生の終盤に差し掛かった主人公、一鬼太治平(このネーミングも凄いが)は、戦後企業の実業家として成功してきた(当時は、会社勤めであれば、退職間際の年齢)が、妻を亡くして、二人の娘を嫁がせ、退職近くに、欧州視察とは名ばかりの漫遊に出かけて、その間に体調の崩れを感じ、パリの病院で検査を受けたら余命一年の重病と言われ、来し方行く末を、あれこれ考えにふけり、自省する、という高齢者向きの話だった。

1961年といえば、私は16歳、高校生だ。当時の国語教師(多分30代の女性)が、「井上靖の書くものは、同じような内容の話がずっと続いて、ページを繰って、また読み始めたら、まだ同じことを書いている。」と酷評していたという記憶がある。当時は、そうかと思っていたのだが、何か心に引っ掛かっていたのだ。何故そのような小説家が巷ではよく読まれるのだろうかと。

その当時と比べれば、今は、50代、60代は、未だ現役も一杯いるし、寿命自体が延びているから、60歳以前の会社役員が、主人公と同じような感慨を持つとは思えない。それでも、私は、読み始めるや惹き込まれ、この750余ページを一気に読んでしまった。それは、年齢に関わりなく、生きていれば誰しもが何度かは遭遇する人生の節目に向き合い、自分の生き方、逝き方を、考えなければならない、ということで、私もそうした年代にある、ということではないかと思ったのだ。

映画では、佐分利信が、重厚な演技で主人公を演じていたが、パリで出会った日本女性(岸恵子さんが好演)が、フランス人の大富豪の夫人でありながら、主人公の憧れと深い情念の対象として描かれている。岸さんなればこその気品と豪奢な佇まいが難なく画面を圧倒していた。(尤も、そんな大富豪の夫人が、ルーブル美術館の近くのテュイルリー公園で、女中に子供を託して、編物をするかいな、という疑問は、浮かんだのだが。)ただ、映画では違和感はなかったものの、小説を読む限り、私の頭の中では、佐分利信さんよりも、山村聡さんの顔が浮かんできて。佐分利信さんのイメージが正解だとは思うものの。

監督は、小林正樹さん。緻密な演出もこの人らしい。映画は、小説に概ね沿いながら、初老の男(女もそうだが)が自らの人生で対処するべきは、何か、それをどう、どのように, いつ処理すべきか、を、観ている私達に突きつけてくる。目前に迫った死を前に、「あなた、それでいいんですか?」と訊かれているような気がしながら、小説を読み終わった。

こうした小説を、今誰が書くのだろう?

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