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労働者の権利とその後 


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サンケン・メドウ・パーク・ゴルフ場(州営)

「鉄道会社、それもLong Island Rail Road (LIRR) で働くということが、どんなことなのか、手っ取り早く知るには、ロング・アイランド(NY近郊)の州保有のサンケン・メドウ・ゴルフ・コースに行くのがいい。」という文章で始まる調査ルポがNYタイムス紙に載ったのは、三年前、2008年9月21日だった。

当時この記事を読んで、読むにつれて、自分の眼が丸くなっていった感触をよく覚えている。この記事は、LIRRの職員が、州法、連邦法、規制の裏を掻い潜って(というかむしろシステムを使いこなして堂々と)州の蓄積された資産(つまりそれは州民の税金だが)を、どのようにして私財に転換させていったかの詳細な記録だった。この記事を書いたのは、Walt Bogdanichという調査ルポではピューリツァー賞を4回も受賞したベテラン記者である。
記事によれば、鉄道は、通常の企業の労働よりも危険度が高いことと、退職した場合、他に転用できる技術になり難いとの理由で、一般企業のソーシャル・セキュリティー(年金制度)とは別に、鉄道労働者用の年金システムが用意され、鉄道労働者年金委員会が出来たのは、1930年の大恐慌直後であったという。その後、労働者の権利を守るスト権が保存されたこと、他の業種とは別扱いという状態が長く続いた(ので取り残された部分がある)こと、委員会が、DCではなくシカゴに設立され、常任委員3名はいずれも、大統領の直接指名で(議会の承認も無く)、委員が定期的に会合を開くこともなく(自宅がフロリダの委員は、予算のムダ遣い・不正使用を監督する立場にありながら、シカゴ事務所で実際の書類を見ることもなくEmailでのやり取りのみ)、だがフルタイムの、所謂「美味しい」職(年収$150,000)であったこと、こうした監督者不在の内に、労働組合が大きな権力を持ち様々な手法を編み出した結果であるという。ストを打てば多くの勤労者に迷惑を懸けるが、突き上げを食らうのは経営者であった。

当初は、確かに危険度は高かったであろうが、時代は変わり、鉄道が一部の作業を除いて必ずしも危険度の高い業種では無くなったにも関わらず、労働組合は様々な規制で働く人びとを「護り」且つ「優遇」したという。だが、L.I.R.R.は、同じ立場にある同業他社(他地域)と比較しても、規則と実態のズレは極めて突起していた。それが記者の嗅覚に訴えたようである。

まず、「護る」対象となったのは既得権である。ソーシャル・セキュリティーの開始年齢が、世代と共に高齢化していった(現在は67歳)のをしり目に、鉄道熟練者(20年以上勤務)は、50歳を超えれば年金申請が出来る仕組みがある。経営側は、1988年を境に20年50歳制度を改訂したが1988年以前に既に20年に近い勤務実績を持っていた労働者も数多くいた。その人々の権益は護られたのである。

「優遇」については古い規則(中には1920年以来)からの名残で、「超過勤務・残業手当」その他があった。一例を挙げれば、エンジニアの職種の者が夜勤した場合、偶に客席乗務員の仕事をすることがある。この場合は、規則違反である為、別の日当が得られる。そして、夜中の2時に、エンジンのメンテナンスをすると、更に日当が出る。その上、残業があれば、それが超過の加算で追加され、食事の時間がずれれば、その費用が出る。最終的には一晩で、4日分の給与が支払われるという何とも美味しい話である。(基本の給与はこの日は$245のはずが、実際に得たのは$1,177だったという。)これは極端なケースであるが、2006年だけで熟練工が一日の労働で3倍支払われたケースが500件という。客室乗務員も同様のケースが150件。やり方は、10種類以上あるという。また、雨天の場合は、追加手当(実際の業務の時は降っていなくても、行き帰りに降れば雨天とされる)が払われる。雨が降らないのに42日分余計に支払った年もある。(飛ぶ鳥の落とす尿水も雨と見なすと説明する者もいた。)

これだけではない。「護る」「優遇する」なら、労働者として理解できる。L.I.R.R.の場合は、これに「集団詐取」が加わった。

労災保険が勤務中事故にあった際の給与補償、医・治療費を補償することは良く知られている。米国の場合、労災は、連邦法の下に各州が行政管理している。労災を買うのは企業や組織(雇用者)である(連邦組織の職員、教会、農業、教師、などは別)。L.I.R.R.の熟練労働者達は、50歳近く、或いは退職直後、急激に体を悪くするようになった。長年、動く列車で立ち続けた為、列車の段差で毛躓いて、腕を長時間上げていたのでなど、様々な理由で椎間板ヘルニア、リューマチ、筋骨格系不具合が「職業上の疾病」と申請する人が続出した。そして何故か、同じ医師に見てもらい、決まったコンサルタント(元労組のリーダー等)に申請手続きを依頼する。業界でも、L.I.R.R.の職業病申請率は、同業他社の3-4倍という。しかも労働者ばかりではなく、L.I.R.R.では、事務職、中間管理職の職業病申請も突起していた。(2001―2007年間、メトロ・ノース社の申請数32に対し、L.I.R.R.は753件)そして申請者は90%以上の確率で認められた。承認されればその後の再検査は無し。L.I.R.R.の経営側にはこうした実情は闇の中だったという。記事を読んだ社長が委員会への次回出席を申請したら、過去2年間、委員会が開かれた記録が無いと判って仰天したという。

20年ほど勤務の間に「護られた」制度で、給与、高額の残業代を得て、引退後は、職業病の給与手当(既に引退し、職業が無いのに)労災で得た「熟練労働者」及び「中間管理職」が、冒頭のゴルフ・コースに現れた、という話である。一年に100回以上ゴルフ・コースを時には徒歩で回る(それも、職業病の為、コース代は無料)、長期のサイクリング旅行に出る、或いは雪かきをする、など、病人のすることとは思えないことをしている隠しカメラがある、という実態調査記事である。このシリーズは大きな反響を呼んだ。
この3年後、今年の10月27日、NYタイムス紙は、L.I.R.R.の元工員、医者、コンサルタントなど11名の検挙を報道した。3年前の記事が引き金になってFBIと検察局が動いたと報道。場面は連邦NY地裁になるという。逮捕されたのは、「目に余る規模」だった人達だという。

翌日10月28日のNYタイムスは、3年前の報道以後、若干控えめになったとはいえ、まだまだL.I.R.R.の職業病認定申請は、同業他社と比べて倍である、と伝えている。記者は別の記者である。だが、報道姿勢は一貫している。記者クラブはどこにも無い。

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